HOLE 04 / FASHION

アメリカ「ストリートゴルフ」文化入門
― 名門主義を裏返した10年

アメリカのストリートゴルフ文化のイメージ(フラットブリム帽とゴルフフラッグ)

日本でゴルフウェアといえば、まず「きれいめ」「上品」「浮かないか」。でもアメリカのこの10年は、真逆の方向に振り切れました。フーディーにジーンズ、金のチェーンで公営コースへ——それを“クール”とするストリートゴルフ(ニュースクール・ゴルフ)のうねりです。ファッションの話に見えて、その根っこには「ゴルフは誰のものか」という問い直しがあります。日本語の情報だけでは見えにくいこの文化を、背景・人物・ブランド・メディアから解きほぐします。

「ニューゴルフ」=反カントリークラブという潮流

アメリカのゴルフは長らく、きっちり刈られたグリーン、厳格なドレスコード、会員制クラブの“門番”が守る暗黙のルール——そんな儀式に閉じ込められてきました。2010年代半ばから、それに正面から逆らう動きが広がります。旗印は明確に「反権威・反カントリークラブ」。服装規定より「ゴルファーが実際にどう生き、どう遊び、何を着たいか」を優先し、美学はスケート・ヒップホップ・アート由来のストリートウェアから堂々と借りてくる。オーバーサイズ、大胆なグラフィック、そして「個の表現」です。

この空気を早くから象徴したのが、ラッパーのタイラー・ザ・クリエイターが手がけたブランド「Golf Wang」でした。ゴルフとストリートが地続きであることを、若い世代に強く印象づけたのです。

火をつけたコロナ禍のゴルフブーム(数字で見る)

文化の“燃料”になったのは、コロナ禍のゴルフ人気爆発でした。全米ゴルフ財団(NGF)のデータが変化の規模を物語ります。

  • 2020年:全米のプレー数は約5億200万ラウンド(前年約4億4,100万から+約14%)。初めてコースに出た人が約300万人、復帰組を含めると約620万人と、NGF史上最多クラス。
  • 2024年:オンコース・ゴルファーは2,810万人(2008年以来の多さ)。うち女性が28%、黒人・アジア系・ヒスパニックが25%と、いずれも過去最高比率に。
  • 女性ゴルファーは約790万人で過去最多。トップゴルフやシミュレーターなど“オフコース”専門層は、さらに女性・多様な層の比率が高い。

ポイントは、増えたのが従来より若く、多様な人たちだったこと。NGF自身が「ゴルフはより若く、よりクールになっている」と表現するほどで、これが新しいカルチャーの人口的な土台になりました。

4つの文化の柱

①「ミュニ(公営コース)」プライド

「muni(ミュニ)」=自治体所有の公営コース。かつては「安かろう悪かろう」と見下されがちでしたが、ニュースクール文化ではむしろ誇りの記章に反転しました。「事務員だろうがCEOだろうが、全員が同じ扱いを受ける平等の場」として再評価され、“muni ルネサンス”という言葉まで生まれています。

象徴が、カリフォルニアのGoat Hill Park。再開発で消えかけたのを2014年に住民運動が救い、アパレル業界人らが「オーシャンサイドの人民の公園」として再生させました。掲げるモットーは痛快な一言——「World Class, Working Class(世界水準、労働者階級)」。犬も、音楽を鳴らす人も、ビール片手の人も気兼ねなく共存する空気が、そのまま文化になっています。テネシーの9ホールSweetens Cove(服装自由・犬OK・1日パス制)が“SNS時代最初の名物コース”として広まったのも同じ流れです。

②ゴルフ×ヒップホップ

この運動の最強の推進力がヒップホップとの融合です。ラッパーのマックルモアはコロナ禍で夢中になり、自らアパレル「Bogey Boys」を創設。スヌープ・ドッグ、DJキャレド、ドレイク(NikeサブレーベルNOCTAでゴルフを展開)といった顔ぶれが次々に参入しました。彼らはゴルフを、黒人文化・若者文化と“対立するもの”ではなく“両立するもの”へと再定義したのです。

③「Golf is for everyone」というエトス

すべてを貫く合言葉が「ゴルフはみんなのもの」。ミュニの平等主義、そしてコロナ禍で加わった若く多様な数百万人の新規層が、このスローガンに“実際の裏づけ”を与えました。掛け声だけでなく、プレーする人の顔ぶれが本当に変わったのです。

④黒人ゴルフの歴史 ― この運動の“背骨”

ストリートゴルフの明るさの奥には、重い歴史があります。ここが日本ではほとんど語られない部分です。

  • ジョン・シッペン:アメリカ生まれ初のプロゴルファーとされ、1896年の全米オープンに出場し5位タイ。
  • PGAの“白人限定”条項:1934年から1961年まで、PGAの会則が会員資格を白人に限定していた(1961年に撤廃)。
  • チャーリー・シフォード:PGAツアーをプレーした初の黒人選手。1967年・1969年にツアー優勝し、2004年に黒人初の世界ゴルフ殿堂入り。
  • ビル・パウエルとクリアビュー:帰還兵ながら融資も入場も拒まれた彼が、酪農場を買って手作業でコースを建設。1948年開場の、黒人が設計・建設・所有・運営したアメリカ初の“誰にでも開かれた”コース。
  • タイガー・ウッズ:1997年マスターズ制覇。自らを「Cablinasian」(複数のルーツの混成)と表現し、“Tiger Effect”で参加と多様性が跳ね上がった。

この歴史を現代とつないだのがEastside Golf(2019年・アトランタ創業)。名門HBCUモアハウス大学のゴルフ部で同期だった2人が立ち上げました。ロゴ「The Swingman」は、ジーンズ・スウェット・太い金のチェーン姿で振り抜く黒人男性。創業者いわく「ジーンズにスウェット、チェーンで公営コースに行って、ただクラブを振ってゴルフを楽しんでいい、と言っているんだ」。2021年にはジョーダン ブランドと組み、1961年の“白人限定条項”撤廃にちなむコレクションを発表。ストリートの服と黒人ゴルフ史が、一本の線でつながった瞬間でした。

カルチャーとしてのブランド(何を売るかより、何を語るか)

ストリートゴルフのブランドは、機能や価格の前に“物語とスタンス”で選ばれます。代表格をスタンスとともに紹介します(各公式サイトへリンク)。日本での買い方は海外ゴルフブランドの買い方ガイドにまとめました。

  • Malbon Golf(2017・ロサンゼルス):ストリートウェアの聖地フェアファックス発。「既存のゴルフ服は1985年のカントリークラブ向けにデザインされている」と喝破し、“グリーンを共通の場に”を掲げる。いま最も勢いのある一つ。公式 ↗
  • Eastside Golf:前述。黒人ゴルフ史を背負う“意味のあるストリート”。公式 ↗
  • Metalwood Studio:90〜2000年代初頭ゴルフへのオマージュ。最新素材をあえて避け、“ノスタルジア”を美学に。公式 ↗
  • Bogey Boys(マックルモア・2021):「始めて1週間でゴルフ服がダサいと気づいた」。70年代美学+ほぼユニセックス。公式 ↗
  • Manors Golf(英・2019):「ゴルフは克服すべき競技ではなく、探求すべきゲーム(A Game To Be Explored)」。英国の黄金期に着想。公式 ↗
  • Birds of Condor(豪):サーフ&音楽×陽気×反エリート。名は“パー5のホールインワン”に由来。公式 ↗
  • Foray Golf(女性・2016):元ランジェリー大手のデザイナーが創業。「馴染めないから、と女性がゴルフから排除される必要はない」。公式 ↗
  • Students Golf:LAのファッションデザイナーが創業。「クールな人たちが退屈な服を着ていた」ことへの対抗。反ゲートキーピングが軸。

※各ブランドの提携・コラボ等の最新情報は変動します。史実・数値は公開時点の各社/報道情報に基づく要約です。

「コンテンツ・ゴルフ」― 主役はYouTuberとラッパー

ファッションを流行させたのは、雑誌でも広告でもなくクリエイターでした。数百万人が観るYouTubeゴルフの中で、彼らがMalbonやEastsideを着る。それだけでウェアが“ニッチ”から“憧れ”へ変わっていったのです。

  • Good Good Golf(2020):ゴルフYouTube仲間が結成し、メディアに「リンクスのボーイバンド」と呼ばれた。2025年には大型の資金調達を実施し、“クリエイターゴルフ”が一つの産業になったことを示した。
  • Bob Does Sports(2021):「楽しめ、思い切りいけ(send it)」の純粋形。親しみやすい“普通の人”像で人気。
  • Grant Horvat:ソロのクリエイターながら、タイガーやマキロイら大物と回る動画で急伸。個人が集団に匹敵し得ることを証明。
  • Random Golf Club(映像作家エリック・アンダース・ラング主宰):モットーは「ALL ARE WELCOME」。見知らぬ者同士が一緒に回るミートアップで、“belonging(居場所)”という概念をゴルフに持ち込んだ。

さらに、プロ側もブライソン・デシャンボーの「Break 50」など、自らクリエイターとして参入。PGAツアーが公式に「Creator Classic」(2024年〜)を設けるまでになり、ゴルフは“教則・競技の商品”から“人格主導のエンタメ”へと軸足を移しました。

日本と何が違う?(ここが一番おもしろい)

この文化のおもしろさは、日本のゴルフ慣行と“正反対”な点にこそあります。

  • 服装の常識が逆:日本はメンバーコース中心で襟付き必須、ジーンズやTシャツは不可、タトゥーで入場を断られることも。アメリカのミュニでは、フーディー・ジーンズ・金チェーンが“クール”の記号になっている。
  • 公営コース=誇り:日本で「安い公営」はステータスになりにくいが、米では「World Class, Working Class」のように、ミュニであること自体がアイデンティティ。
  • ハーフ休憩がない:前半9→昼食休憩→後半9、という日本独自の流れ(接待文化とレストラン収益に由来)は海外では驚かれる。米は18ホールを一気に回る“スルー”が基本。※日本でも北海道・沖縄はスルーが主流という例外も。
  • コースで音楽・ビール・犬:静粛と礼節を重んじる日本のコース観からは衝撃的な“ゆるさ”。
  • 歴史の語られ方:白人限定条項やクリアビューなど、ゴルフが公民権運動と地続きだった史実は、日本ではほとんど知られていない。Eastsideのロゴが持つ“政治性”は、背景を知って初めて刺さる。

つまりアメリカのストリートゴルフは、単なる「派手な服」ではなく、「誰が、どんな格好で、どこで、どう楽しんでいいか」を広げ直す運動。日本で真似するときも、表面のデザインだけでなく、この“開かれた姿勢”ごと取り入れると、着こなしに芯が通ります。まずは1点、遊びのあるアイテムから始めてみてください。

【体験メモ】 40代・ゴルフ歴1年。ストリート系は雰囲気に憧れるが、そのまま着ると年齢的に浮くので、シルエットのゆとりだけを拝借してロゴや色は抑えめにした。ドレスコードのあるコースでは襟付き必須など制約もあるため、練習場やカジュアルな場から試すのが無難。文化背景を知ると、ただの流行ではなく選び方に納得感が出た。

よくある質問

「ストリートゴルフ」って結局どういう意味?

スケートやヒップホップなどストリートカルチャーの美学(オーバーサイズ、大胆なグラフィック、自己表現)をゴルフウェアに持ち込むスタイルと、その背景にある「ゴルフはもっと自由で開かれていい」という価値観の両方を指します。ファッションであり、姿勢でもあります。

日本のコースでも着られる?

コースのドレスコード次第です。日本は襟付き必須などの規定が多いので、まずは襟付きポロやきれいめアイテムに、ストリート系を“1点だけ”効かせるのが安全。名門・格式の高いコースでは規定を事前に確認しましょう。カジュアルな河川敷やパブリックなら、もう少し自由に楽しめます。

これらのブランドはどこで買えますか?

多くは各ブランドの公式オンラインストア(DTC)が中心で、日本では並行輸入やセレクトショップ経由のことも。楽天・Amazonでの入手可否をまとめた海外ゴルフブランドの買い方ガイドを参考にしてください。